幼稚園は三年保育で入園する子どもが大半を占めますが、二年保育や一年保育で入園する子どももいますね。子どもは大人が思っている以上にドキドキして生活をスタートさせたことでしょう。そんな一年の終わりの3学期が始まりました。
園にも毎年二年保育で入園されるお子さまがいます。ある年にも男児が二年保育で入園する時が与えられました。Sくんという男の子です。
はじめは、初めて会う子どもたちとの関係づくりから始めるのですが、Sくんは幼稚園のことも友だちのことも分からない。先生との出会いも初めてでした。
そして、Sくんは自分の思いを表現することが少し苦手でした。どのように苦手だったかというと言葉の前に行動してしまうため、受け入れてもらうことがなかなかできず、クラスの友だちには、「Sくんなんてだいっきらい。」「なんでいつもそんなことするの。」といつも言われてしまうほどでした。一年間ともに過ごしてきた子どもたちの中に入るということは子どもたちにとって大変なことなのです。
言葉の前に行動してしまうことがSくんの良いところでもありました。それは、実習生がクラスに入っている時でした。実習生の特技にバイオリンとあり、子どもたちの前で披露したらどうかと提案しました。子どもたちには内緒で計画した日に突然バイオリンを出しました。するとそれを見たSくんは真っ先に積み木で舞台を作り始めました。その舞台に乗ってみんなで♪さんぽの歌を歌いました。みんなが喜び多い時間を、楽しい時間を過ごすことができました。
その後の実習協議で、実習生は涙を流して、「うれしかった。ようちえんの先生になりたい。と思いました。」と話してくれました。Sくんの力で喜びを実習生は感じることができたのです。
しかし、子どもたちにはなかなかその部分は伝わっていきませんでした。
そこで、どんなときもSくんの味方になると決めました。
その時のSくんの気持ちが皆に分かるようにその度に気持ちを代弁することを積み重ねていきました。
当然一日、二日で変わるはずもありません。Sくんとともに周りの友だちにどうしたら気持ちが伝わるのかを考えていきました。すると少しずつ少しずつ変わっていきました。Sくんのよいところもみんなが見てくれるようになっていったのです。受け入れられることはどんなに嬉しいことでしょうか。Sくんも少しずつ表現の仕方が変わっていきました。
Sくん、いやこのクラスのこどもたちとは年長さんでもともに過ごすことになり、卒園までともに過ごす時間が与えられました。
そして、卒園したときにSくんが手紙をくれました。その手紙には、こう書いてありました。「Kせんせい。ぼくのことをわかってくれてありがとう」と。たった二十五文字の言葉が涙がでるほど嬉しかったです。
その言葉を見たときに、初めて自分自身がSくんの隣人になることができたのかなと思いました。神さまはできることをできる時に与えてくださるのだ思いました。
子どもたちの生き方の根拠となる心の安定と信頼は、身近な大人に愛され受容されることによって育ち、自分も神さまに愛されている。という気付きへとつながっていくのだと思います。